[雑誌、棚からひとつかみ ~“平成に話題をよんだ雑誌”の巻~]
新元号が「令和」になってしばらくたちましたが、「平成時代」には、63年間に及んだ「昭和」に劣らず話題を呼んだ雑誌、時代を導いた雑誌が数多くあります。また、創刊号は昭和年代にも負けない数が出版されています。一時話題を呼んで短命に終わった雑誌でもその時代の確かな記憶です。30年間の様々なトピックとそれに関わる話題の雑誌をご紹介いたします。
キーワード「オヤジギャル」「アッシー(君)」「メッシー」「ミツグ(みつぐ)君」
・『週刊SPA!』発行:扶桑社
流行語「アッシー(君)」の索引件数がWeb OYA-bunkoで80件中13件と一番多い雑誌です。また流行語「オヤジギャル」を生んだ中尊寺ゆつ子さんの漫画『スイートスポット』が連載(1989年4月12日号~1992年6月3日号)されました。
週刊誌の中で移り行く時代の世相をとらえる鋭さは群を抜いています。例えば2000年3月15日号には「20~30代[おやっさんギャル]の飾らなさすぎる人生 オヤジギャルなんてカワイイもんだった 泥酔して乳ポロリ、くわえ煙草でパチスロ、焼酎鯨飲して毎朝下痢…」というオヤジギャルの進化系?が紹介されています。
『野性時代』1996年2月号 「文芸時評 クイアーな“快楽”を求めて」にはこのような記述があります。「それを読んでいれば、とにもかくにも「時代」がわかると思わせる雑誌が存在した。例えば90年代前半の「SPA!」であったかもしれない。」
所蔵
・創刊号~最新号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「ちょい不良(ワル)」「ちょいモテ」
・『LEON』発行:主婦と生活社
年収1500万円以上を読者ターゲットに絞って成功したクラスマガジンです。「モテるオヤジ」になるにはどうすればよいか。『ダ・カーポ』2006年1月18日号には「“教養”系の特集をやってもそこにクライアントは少ないのでモテたいという読者の本音の琴線に触れていく」とあります。
また「現代の肖像 岸田一郎「LEON」編集長 ちょい不良オヤジの凄腕商法」『AERA』2004年10月11日号では「モテるために内面を磨く、というふうにならないんですか?」との質問に「なりません」「そこにクライアントがいないから」と答えています。
所蔵
・創刊号~最新号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「時代の転換期に輝いた雑誌」
・『宝島30』発行:宝島社
わずか1993年から1996年の刊行にも関わらずオウム真理教事件や逮捕前後の角川春樹氏のレポートなどで話題を呼びました。現在活躍中の言論人や評論家が当時はまだ無名?の編集者や執筆者として活躍された雑誌です。
『宝島30』休刊号編集後記では「雑誌としては成功しなかったがオウム事件という時代を画する事件に関われたことは望外の幸せだった」と記載されています。また、『EX大衆』2018年6月号で橘玲(『宝島30』休刊号編集長)は「アイドルもサブカルも雑誌が牽引していたし、現在ネットがやっていることはかつて全部出版の領域でした。オウム事件とウインドウズ95の発売を時代の転換点と考える。」と語っています。
所蔵
・創刊号~休刊号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「異色文芸雑誌」
・『ファウスト』発行:講談社
2003年の創刊号から2011年9月号のVol.8まで編集者1人で通した文芸雑誌です。Vol.8には表紙に「『ファウスト』は次号、解散します!」と大きく記されていますが次号はまだ刊行されてないようです。毎号表紙に「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン 何が飛び出すか誰にもわからない文芸コロシアム!」と記されています。2004年11月のVol.4には「早くも独走態勢!文芸雑誌推定実売部数No.1達成!」とあります。
所蔵
・創刊号~最新号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「時代と共に何度も転換した雑誌」
・『宝島』発行:宝島社
創刊の頃から中身がアメリカ西海岸文化、サブカルチャー、バンド・ブーム、ヘアヌード掲載のエロ雑誌路線、週刊誌、月刊のビジネス雑誌、アングラ情報誌と様々に変わっていった雑誌です。
個人的には、一般読者の投稿からレギュラー執筆陣になってゆくというスタイルが印象に残っています。平成初期のバンドブームの頃からエロ雑誌への転換は1993年4月頃のようです。「日本ロック雑誌クロニクル 3回「ジャパニーズ・ロック新世代」を育てた出版ゲリラ『宝島』の熱かった時代」『クイック・ジャパン』2000年8月号ではバンド・ブームの終わりによる雑誌の転換について編集長が語っています。2000年3月15日号から週刊誌、2003年9月号から月刊誌となります。
所蔵
・創刊号~休刊号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「時代を背負う雑誌」「異常な熱量」
・『クイックジャパン』発行:太田出版
「時代を背負う雑誌というものもあるんじゃないか、(略)それが今は『クイック・ジャパン』なのかな、という感じがします」。『宝島30』1996年2月号「編集の力がオウム関係ベスト記事を生んだ『クイック・ジャパン』、竹熊健太郎『私とハルマゲドン』太田出版」の一文です。
編集長が2代続いてドクターストップのため交代したほど熱のこもった情報量が多い雑誌です。
『クイック・ジャパン』2014年8月号「俺たちのQJ愛2014」~古参ライターが語る、QJの極私的ヒストリー」では「やり方は編集長ごとに変わっていると思いますけど、(略)好きなものに対する熱が異常に強くて、それを第三者に伝えたい人たちの集まり」と記載があります。
所蔵
・創刊号~最新号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「デザインされたゲリラ雑誌」
・『サイゾー』発行:株式会社サイゾー
「“暗黒”雑誌風になりがちな内容をすっきりさっぱりしたデザインの“さわやか”雑誌風に提示。」『フィーチャー』1999年1月号。「チクリ命、クレーム上等!?御用マスコミを嗤う、ネット世代の『噂の真相』」『ダ・カーポ』2000年9月20日号。など創刊当初からインターネットの影響が濃い雑誌として注目されていました。『創』2012年9月号では、雑誌が赤字でウェブが黒字ということだと『ぴあ』のように雑誌をやめてウェブだけにしようということにならないか、との問いに「ネットにおいて情報の信頼性や企業としての信頼度・ブランド力を担保するという点で、雑誌を出しているのは意味がある」と編集長が答えています。
所蔵
・創刊号~最新号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「負け犬」
・『IN・POCKET(インポケット)』発行:講談社
酒井順子さんの「負け犬の遠吠え」が連載(2002年1月号~2003年2月号)されました。単行本の出版後に新聞・雑誌などで「負け犬」論争が起こりました。
妙木忍著『女性同士の争いは何故起こるのか 主婦論争の誕生と終焉』では「負け犬」論争(第6次主婦論争(2003年~2005年))の引用文献として雑誌記事から83件が紹介されています。Web OYA-bunkoでフリーワード「負け犬」で検索しますと同じく2003年~2005年で407件が検索されます。(これは必ずしも「負け犬」論争の雑誌記事だけではなく、「負け犬」という言葉がいかに流行語となっていたかを示すものと思われます。)
Web OYA-bunkoでは検索できませんが、「負け犬」論争では勝ち犬の雑誌?として論じられた『VERY』2013年12月号ではVERY専属モデルのクリス・ウェブ佳子さんと酒井順子さんの対談「年の瀬に「彼女」に思いを馳せてみませんか?「女の敵は女」論争を超えて」が掲載されています。
所蔵
・創刊号~休刊号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「ティラミス」「クレームブリュレ」「ナタデココ」「Hanako族」
・『Hanako』発行:マガジンハウス
東京地域情報誌として創刊から話題を集め、様々な流行語の発信源となりました。『ACROSS』1988年11月号には「新中間OLの通勤雑誌か。ライフスタイル提案がない。街をあくまで消費文化という面から押えていて下手に文学的にならないところが新鮮だ」
とあり、新時代の雑誌として扱われていました。近年はサイズを大きくしてリニューアルし情報誌から普通の雑誌へと変化しています。
所蔵
・創刊号~最新号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「コマダム」「シロガネーゼ」「イケダン」「公園デビュー」
・『VERY』発行:光文社
15年前はJJガールだった30代主婦に焦点を絞って刊行されました。『ACROSS』1995年12月号では「Hanako30(サーティーズ)」と名付け30代をマーケットとした雑誌として紹介されています。また『宣伝会議』2002年5月号では「アシヤレーヌ」「マイドンナ」「ベビーカート族」などのネーミングセンスについて「ネーミングが街を活性化させ、新たな市場を創造する 光文社『VERY』」と分析されています。「狙われるHanako30の消費パワー[最後に残された巨大消費マーケット]」『ACROSS』1995年12月号では、雑誌『すてきな奥さん』のつましい工夫に対するアンチの意識があると紹介されています。
所蔵
・創刊号~最新号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「創刊号から爆発的に売れ続け80万部超えの生活実用情報誌」
・『すてきな奥さん』発行:主婦と生活社
『アクロス』1992年2月号では「80年代後半の消費の牽引車は“Hanakoさん”であり『すてきな奥さん』の読者こそ、そうした現象の水面下でコンサバな道を選択した陽の目を見なかった層なのである。」とあります。また『日経イメージ気象観測』1992年1月号では「『すてきな奥さん』が売れるのには消費のストレスがその快楽を上回りはじめたことがある。」とあり、その人気の原因解明に注目が集まりました。
所蔵
・創刊号~2014年5月号までほぼ欠本なく所蔵しています。
キーワード「MART族」
・『MART マート』発行:光文社
「食べるラー油」「ダウニー」「ルクエスチームケース」「コストコ」など雑誌で特集したテーマが悉く話題になった雑誌です。ただ商品を紹介するのではなく、主婦がコミュニティの一員になるためのコミュニケーションツールとしての商品を取り上げていることが「なぜ、雑誌Martに取り上げられる商品はヒットするのか」『PRESIDENT』2011年8月1日号で紹介されています。
所蔵
・創刊号~最新号まで欠本なく所蔵しています。
キーワード「コギャル」「アムラー」「ガングロ」「パラパラ」「ヤマンバ」「ルーズソックス」
・『egg エッグ』発行:大洋図書
所蔵
・創刊号1995年9月~2011年5月号まで発行された号のおよそ40パーセントを所蔵しています。
・『CaWaii! カワイイ』発行:主婦の友社
所蔵
・創刊号1996年4月~休刊号までほぼ欠本なく所蔵しています。
・『PoPteen』発行:株式会社角川春樹事務所
所蔵
・創刊号1980年11月~1996年12月号までほぼ欠本なく所蔵しています。
・『CUTiE』発行:宝島社
所蔵
・創刊号1989年11月~休刊号までほぼ欠本なく所蔵しています。
・『Olive』発行:マガジンハウス
所蔵
・創刊号1981年11月~休刊号までほぼ欠本なく所蔵しています。
上記キーワードの他、多くの流行語を生んだギャルカルチャーに同伴して刊行された雑誌群です。ギャル雑誌・ギャル系ファッション雑誌と呼ばれています。
読者モデルとして雑誌に登場したギャルが、後に専属モデルや表紙モデルになったり、アイドルになったりとその後も活躍します。松谷創一郎著『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの30年戦争』のあとがきでは時代によって移り変わる若い女性達同士の関係性を描写しその歴史が記されていますが、雑誌の表紙とグラビアページを眺めるだけでも雑誌別の想定される読者・登場人物などの棲み分けがなされていると感じます。『サイゾー』2014年7月号「『egg』休刊、『ageha』インフォレスト倒産…ギャル誌が終わってコンサバが伸びる? 女性ファッション誌の揺れ動くサバイバル戦略」では、ギャル系雑誌の編集者たちが雑誌やモデルなど業界の現在について語っています。
キーワード「森ガール」
・『spoon』発行:プレビジョン
『東京人』2019年2月号の記述では「森ガール」は2006年当時国内最大のSNSだったmixiから始まったそうです。そのためか定義がなく雰囲気だけだったため文化系からギャルまで拡大解釈可能だったそうです。ファッション雑誌では2009年2月に『別冊spoon 森ガールAtoZ』が刊行されたのが始まりのようです。
現在ブームは終わり読者は『mer(メル)』『LARME(ラルム)』や(丁寧な)暮らし系女性誌『クウネル』『リンネル』『天然生活』などに流れているとのことです。
なおいずれも1冊のみの所蔵ですが、森ガールが雑誌名に入った3冊の創刊号を所蔵しています。
『森ガールpapier(パピエール)』2009年10月28日号アスキー・メディアワークス刊
『e-MOOK森ガール』2009年11月10日宝島社刊
『森ガールvalon(バロン)』2010年1月10日辰巳出版株式会社刊
所蔵
・創刊号~2012年2月号までほぼ欠本なく所蔵していますが埼玉県越生分館に所蔵しています。
キーワード「ニコモ」
・『ニコラ(nicola)』『ニコ☆プチ』発行:新潮社
「小中学生市場はほぼ掌握した」と広報宣伝部長が豪語する(『創』2014年2月号)ほどこの世代向けのナンバーワン誌となった『ニコラ』、小学4年~6年向け姉妹誌『ニコ☆プチ』。読者モデルのファッション・ショーではニコモ(モデルをニコモと呼ぶ)の本気さに編集者もひっくり返りそうになったそうです。小学低学年向けの『ニコ☆プチKiDS』も刊行されています。
『SPA!』2018年7月3日号の記述では読者・モデルに対する徹底したアンケート主義と、大人目線ではなく子供目線での誌面作りが特徴とのことです。
所蔵『ニコラ(nicola)』
・創刊号~2010年12月号までほぼ欠本なく所蔵しています。
所蔵『ニコ☆プチ』
・創刊号~最新号までほぼ欠本なく所蔵しています。
※発行元は所蔵している最新号に基づいています。
2019年4月4日現在
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